ブツブツコレクション「都市とチラシ」

ari




(作者プロフィール)
大阪時代、96年から二年強、週刊e-zine"Spider Girl"(通称スパガ)を友と共に主宰していた。 内容は大阪のヘンな街ネタ、噂、居酒屋でのバカ話など。
98年夏、結婚のため東京に移住。 東京には大阪ほどヘンなものはないだろうと予想していたが、人の集まるところにはマヌケなものはつきない。割と東京暮らしを満喫している。
トイコレクターとしての一面もあり、現在Tiny world power という全文英語の個人サイトを主催している。
http://www.geocities.com/ant2000_jp/index.html


私は都市が好きだ。街の変なモノ/人物/事件に目がない。吉村智樹さんの本「マヌケもの中毒」タイトルそのままの人間である。変なネタに出会うためだけのために旅行もするし、おかしな噂を聞けば、実際に行って確かめずにはいられない。そういう意味で世紀末は非常にいい時代である。街中をマヌケな空気がおおっている。

大阪から東京に引っ越してきて、都市の違いというのはやっぱり大きいと思う。東京で拾えるネタと大阪で拾えるネタは相当違う。どっちが面白いとかじゃなくてパワーの方向が違うのだ。
今回はいろいろな都市のポストで手に入れた印刷物(まあ、チラシですね)を題材に選んでみた。


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採取地/東京都目黒区
白地に赤のガリ版刷り、両面オール手書きのこのチラシはアパートの郵便受けに投げ込まれていた。
ぱっと見にはどうみても電波系だが、最後まで熟読してようやくこれが「外資系損保加入」を訴えていることがわかる。興奮のあまり次第に乱れてくる字体、「日本の損保会社の加入金額はダウン〜ダウン〜」「日本の損保会社の30%〜ダウン利益多く有り〜!! 有りすぎる」「景気を回復するには数学的に良く考えて真面目な損保会社に加入しましょう〜!!」といった歌うような節回しなど見どころは多い。
このパワーから想像するに、おそらくこの手書き手刷りのチラシも深夜に本人が配って回ったのではないだろうか。
このチラシを見て下のPHS番号に電話した人は皆無だとは思うが、ご本人はこんなことではくじけないはずだ。必ずやもっと電波色の濃いちらしをウチの郵便受けに投げ込みにくるだろう。



採取地/名古屋
名古屋在住の友人が送ってくれたもの。名古屋は喫茶店激戦区で「コーヒーを頼んでもピーナツがついてくる」とはよく言われているが、このチラシの破天荒な迫力には、「ここまでやる必要はあるのか。というより、ここまでパワーがなければ名古屋では喫茶店は生き延びられないのか」と、ただただ圧倒される。
「350円モーニングで玉子1パック無料」「ドリンク注文の女性、チーズケーキを1円」でおばちゃんから娘さんまで、「お子さまランチ10円、ビーフカレー1円」で子供から食べ盛りの学生までのハートを捕らえ、さらにオヤジ世代にも「キリンラガー大びん450円を1本100円」と綿密に絨毯爆撃。というより、ビールや中華定食とフルーツパフェとモーニングがある時点で完敗なのだが。
「モーニングサービス一日中」「ランチ一日中」といった英語の大胆な解釈っぷり、「1円」という「小学生じゃないんだから」という値段のつけ方、コーヒーチケットを買うだけで100万円があたる(独占禁止法には触れないのか)、など旧来の常識をかなぐり捨てた捨て身の攻撃には、行きたくなるというより、「何故そんなに捨て身なのか」と店主に問いただしたくなる。これが名古屋的経営と言われればそれまでだが。



採取地/京都
宗教モノは反則な気がするが(信者以外にとってある程度変わってるのは当たり前だし)、京都ならではの印刷物といえばやはり精神世界を避けてとおるわけにはいかない。学生の多い街だからか、あるいは昔から言われているように京都の得体の知れないパワーがそういうモノを引き寄せるのか。とにかく京都は商売系よりも精神世界系のチラシに興味深いものが多い。これは京都在住の友人が送ってくれたものだ。A5版で表紙は青、なんと54ページもある。
タイトルは「無限の無限の調和が一杯!」この「!」がかなり効いている。今やスポーツ新聞では「。」並みにいいかげんに使われる「!」だが、正しく使えばこのようにインパクトを飛躍的に高めてくれるのだ。
裏表紙には「無料贈呈 複製自由 名も無きボランティアグループより」。「名もなきボランティアグループ」の意味はこの冊子を最後まで読みとおせば判明する。
54ページは字でぎっしり。すべて振り仮名つきで小学生にも読めるようにしてあるのが心にくい。というか布教目的なら欠かせないだろう。「古神道」「高天原とは天之御中主神」「本心の心とは、仏の四量無心(慈悲喜捨)です」
など神道と仏教が入り交じった説教が延々と続く。
しかし、だ。どこにも発行団体も連絡先も書かれていないのだ。仮にここに書かれている教えに[く感動したとしても、もっと話を聞くためにはどうすればいいのか全くわからない。まさに「名もなきボランティアグループ」だ。布教の目的ですらない、まさしく神についての知識を啓蒙するためだけに作られた冊子である。

三都市のチラシを駆け足で紹介したが、他の都市にももっと凄いチラシは必ずや存在するに違いない。 皆様からの情報を気軽にお寄せいただければ幸いである。
ari@ks.catv.ne.jp






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