正義の味方だゴッチャマン 紀ノ川 つかさ 正義の味方だから当然二十四時間体制である。その日、電話が鳴ったのは夜中の二時、ちょうど寝ついて一時間のいい心持ちの時であった。「ゴッチャマン、コンビニに強盗が入った」「あー」「人質に刃物を突き付け立てこもっている」「あー」「すぐ出動だ!」「あー」一見頼りないが、そこは正義の味方、頭ではちゃんと理解しているのだ。しかし体は全く理解していない。まずコスチュームの後ろ前をごっちゃにした。「うぐぐぐ苦しいっ!」次に車のキーと人差し指をごっちゃにして「うおぉ鍵が入らねえよっ!」アクセルとブレーキをごっちゃにして「うおぉ進まねえよっ!」右と左をごっちゃにして「うおぉこの車逆に曲がるじゃねえかっ!」慌てて車から降りると電柱に向かって「署長、少し遅れまっす」もちろん電話とごっちゃにしている。再び車に乗り込み対向車と対戦車をごっちゃにして「ちっ、でかい砲弾(たま)撃ってきやがるぜ」信号機とイタリア国旗をごっちゃにして閉店中のレストランにグラッチェ!と突入し、踏切りとキリンをごっちゃにして「首なんか振ってんじゃねーよ!」交差点と十字架をごっちゃにして「アーメンの大盛り、ネギいっぱいね」速度制限と束縛と緊縛とSMをごっちゃにして「うへへへへへ」現場に着いた時には人質が殺され、犯人も自殺するという最悪の結末が待っていた。「バカヤローッ!」署長の顔面パンチが飛ぶ。「ぐえっ!」「何やってたんだ貴様は!この役立たずの遅刻野郎が!」ゴッチャマンは歯を食いしばり、固く握った拳を震わせ決意する。「よーし、次こそは絶対遅刻をしないで来てやるぜっ!」 正義の味方だからもちろん二十四時間体制である。その日、電話が鳴ったのは午後の四時、ちょうどおやつの時間であった。もっとも三時から既におやつで、ショートケーキを前にしてずっと考え込んでいる。「イチゴとスポンジケーキと、どっちが先か?」イチゴを引き立てるためにスポンジケーキを発明したのか、スポンジケーキがあったからイチゴを乗せるようになったのか。結論は出なかった。「ゴッチャマン、銀行に強盗が入った。すぐに出動だ!」「……」「どうした?」「……ちょっと考え事が」「そんなの後回しだ。さっさと行け!」さて、今回は遅刻するわけにはいかない。自分の車で出るのは危険なので、タクシーで行くことに決めて支度した。外に出るとちょうど空車が来たが、ここで「て」と「ね」をごっちゃにして「俺はもうダメだよぉ!」なんて音を上げたりしたが、タクシーには一応乗れた。ちなみにおやつは絶対放っておけないから皿ごとケーキを持ったまま「運ちゃん、どうだい景気は?」「甘くないねえ」この時点でケーキなど持ってる場合でないことに気づく。よし、ここで食っちまおう。窓からケーキを放り出し皿にかぶりついた「アオゥッ!」「何してるんですか、お客さん」「何してるだと?いいか俺はなあ」ここで大命題を思い出す。「おい、イチゴとケーキとどっちが先なんだ?教えてくれ!」運ちゃんは絶句。そうこうしているうちに現場に到着したが、この時点でイチゴと猿のケツ、スポンジケーキとカメノコタワシをごっちゃにして署長に詰め寄り「猿のケツとカメノコタワシとどっちが先ですかっ!」「バカヤローッ!」署長の鉄拳が飛ぶ。「ぎえっ!」なんだ署長の方が正義の味方より強いじゃないか、と思うだろうがその通り。署長にとってゴッチャマンなど家畜も同然、下等動物人柱兼オス奴隷である。手柄は俺様のもの、失敗したら貴様のせいだ。ゴッチャマンはまたも握りしめた拳を震わせ決意する「ショートケーキはだめだ。今度からチョコレートケーキにするぜっ!」なお、チョコが先かケーキが先かで悩む羽目になったのは言うまでもない。 正義の味方だからあらいやだ二十四時間体制である。その日、電話が鳴ったのは夜の十時半、寝てはいなかったがエッチなビデオを見ながらある儀式をしていた。(「儀式」って何のことか分からないわ、という乙女は近くの男にでも訊くがよい。みんな知ってるから)「ゴッチャマン、高級料亭に強盗が入って逃げ回っている。すぐに出動だ!」「ま、まだイッてないんですけど」「当たり前だろ!早く行くんだ。現場へ急げっ!」これは困った。ビデオは返さなければならない。仕事から帰ってゆっくり見て返せばいいではないか、と思うだろうが、そこは正義の味方、いつ命を落とすか分からないのだ。殉職後の遺品整理でこんなビデオが見つかったら「やだぁ正義の味方とかいってもこんなの見てるんだぁうふふっ」ってなもんで末代までの恥さらしである。正義の味方は辛いよなあ。半ベソをかきながらコスチュームに着替えたが、その時点でテープとデッキをごっちゃにして、重量約四キロのビデオデッキをヒーヒー言いながらレンタルビデオ店に持ち込み「こ、これ返しまっす」店員の思考、ハデハデのコスチュームを着た奴がテープでなくデッキを返しに来た↓正気じゃない↓逆らわないほうがよい↓「ご返却ありがとうございました!」さて、今回は走って行ける場所なので遅刻はしなかった。「よく来たゴッチャマン。犯人は庭園の中だ。やっつけろ!」「よーし、ゴッチャパンチだ!」ここで向こう側と手前側をごっちゃにして自分の顔を思い切りぶん殴った。「ぐえっ!くそー、今度はゴッチャキックだ!」ここで右足と左足をごっちゃにして両足を振り上げて尻餅をついた。「あいてっ!く、くそーこうなったらゴッチャハリケーンだ!」ここでハリケーンとつむじ風をごっちゃにしたため、頭をかきむしって大量のフケを飛ばした。嫌がらせにはなっても攻撃にはならない。「バカヤローッ!」署長の愛の鞭が飛ぶ。「あぁン……」「何やってんだてめーはっ!まじめに戦え!」「よ、よーし究極の武器、ゴッチャハンマーだ。行くぞっ!」ゴッチャマンは颯爽と飛びかかり、必殺ハンマーで叩きのめした。「うわーっ、やめろーっ、許してくれーっ!」そして庭園の池に見事叩き落としたのだった。言うまでもなく、犯人とごっちゃにした署長をである。「し、しまった……カナヅチの署長をハンマーで叩き落としてしまった……」そこにどういうタイミングか署長の娘が来た。「あ、パパが溺れてる。こいつ、あたしには門限つけてるくせに、てめーは外で女と遊んでばかりいやがって、いい気味だぜこのクソオヤジが!ざまーみろってんだ!」そしてゴッチャマンの方に向き直る。「まあ、あなたがパパをやっつけたのね。正義の味方ね。素敵だわ!」娘は頬にキスをした。純情な彼は思わず頬を赤く染める。たまにはいいこともあるさ。明日も行こうぜ。正義の味方だゴッチャマン! |