ド素人コミケ乱入

報告・土屋 遊




 通称「コミケ」。と言っても正式名称は未だわからず。
 アニメ主体の同人誌即売会ということで、コスプレが多く全国のオタクが一同に集合するという情報のみキャッチしていた。言ってみれば「コミケ」一見さんである。
 当初、見学のみのつもりであったが他のミニコミ(物数奇)発行人のご好意により、『0点』も委託で参加することに決定した。
 これでスタッフも「コミケ」クロウトになったのかい!?
 いいや、私は勤勉ではない。あたりまえだが検便でもない。……ということで相変わらず『ド素人』のまま片岡昆虫を引き連れて乱入レポート開始!


2時30 分 集合  出陣に備え、ふるまくす本部でナスのぬかづけと冷やし茶づけ3杯を食う。
 昆虫はヤクルトをなぜかワイングラスに注ぎロックで3杯。

3時 出発

 コスプレーヤー(アニメの衣装を身にまとい喜ぶ人種)が多いと噂のコミケ。
 そりゃあゼヒとも大いに笑わなければ失礼じゃないか、と、首都高をかっ飛ばすワゴン車の中で笑う練習をする。

3時20分 有明到着

 いやあ、すんごい人の数。
 駐車場所を探しつつ、コスプレを探すのに必死で時間がかかる。

3時45分 東館にむかう

 昆虫はコンチューのくせに鼻がきくらしく
「くさいくさい」
としきりに言っている。私はコスプレがいないので
「いないいない」
としきりに心配する。しかし、なんなんですかこの人の数は。アンタらは一体普段どこに潜伏しているんですか。
 想像をこえた人の多さに、ナメきっていたことを深〜く反省。場所を書いた手帳を本部に置いてきたので、秘書に電話して確認。「東地区 ユ29ーB」と判明したもののまるっきりわからなくて二人は漂流者の気分を満喫する。
 相変わらず「くさいくさい」とうるさい昆虫。

3時50 分 

 どでかいカバンを持った中学時代の同級生 T 君とバッタリ再会。昆虫も同級生である。
 出会うやいなや彼の腕を取り、
「ねえねえ、私たちミニコミ作ってんの。買ってよー!」
 と無理やり連行する。
 どでカバンをこじ開けて中身を見せてもらおうとしたが T君は断固として拒否。色じかけも通じず。本来なら無理やりにでも見せてもらうところだが『0点』を購入してもらう陰謀があるためやむなく引き下がる。
それにしても「いない」。でてこーいっ!コスプレ!受けてたつぞオー!
って何を?

4時

 相変わらずコスプレは姿を現さない。しかし本命のはずの「東地区 ユ29-B」を発見!
 委託してもらった河上さんに挨拶。
 他に「日曜研究家」「物数奇」「萬」そのほかのミニコミが机にキレーに陳列してあった。
 とりあえずT君に有無を言わさず『0点』を買ってもらう。
 ついでに私の書いた文も載っている「物数奇・5」の購入をすすめる河上氏。さすが、商売人だ。T君は大金持ちらしく、すんなり購入。だてにでかいカバンを持っていないと我々はひとしきり感心する。
 ミリオナーT君は「日曜研究家」を手に取り、
「あれ?ボク、これに執筆しているんですよ」
 と、同級生のクセして敬語で話す不思議な人物だ。
 それにしても凄いグーゼン!と筆者および昆虫の二人だけで大いに盛り上がる。
 
 コスプレの所在を確認すると、遥か遠くの西館だそーだ。しかももうすぐ終了だから着替えてるんじゃないかと言う。
 まあいっか。仕方ないのでその辺をうろつくことにしよう。
 T君とは、購入してもらったのでサッサとさよならすることに。
 彼は、別れ際
「それ、コスプレ?」
と言う。何のことかと思いきや私のブルーに染まった髪の毛(コレには深い理由がある)を指している。
「てめえのその、耳にはさんだキティちゃんの鉛筆はなんじゃいっ!」
とは言わなかった。
 お客様は神様です。

4時10分

 コミケはアニメが全体を支配しているが、コスプレ以外のアニメなんてじぇ〜んじぇん興味がないし、時間もないので極小スペースの文芸・評論のコーナーだけをひやかす。
 『私のインド旅行記』などの紀行や、『ハムちゃん』と言ったペットの飼育日記。『オレンジジュースの作り方』。……ハア?
 今後の『0点』作りに参考になるミニコミをゲットしようとしていたものの、その意欲消滅してるところへ
「ソコのきれ-なおネーさん!」
と声をかけられ昆虫と私の両者は密かに自分のことだと確信。

4時25分

 再び「東地区 ユ29-B」にもどる。
 「え〜『0点』は合計で5冊売れました。それから『まわし蹴り新聞』は置き場所も悪かったんだけど今一つなんだよ。今度は10円でもいいから値段つけて売ったほうがいいんじゃない?」
と、早口の河上さんからアドバイスを受ける。
 『まわし蹴り新聞』は、『0点』別冊のフリーペーパーだ。これはけっこう反響がある『0点』の広告塔なのです。みんな読んでねー。
 「5冊売れた」と聞いて、またもや拍手などして大いに盛り上がる若干2名。

 考えてみれば委託料金2000円で売り上げ1250円。750円の赤字ということを両者バカなのでこの時点では全く気付いていない。

4時30分

 終了のアナウンスが流れると館内から一斉に拍手と歓声が巻き起こった。
 オタクが集団で輝いている ……貴重なものを拝見させてもらった。私と昆虫は冷ややかな目で見つめあった。

4時40分

 出張ケンタッキーが売れ残りをオール500円でやけくそ気味にさばいている。
 ミーハーな昆虫は群れる人の山をかき分けやけくそ気味にクソまずいスパイシーチキンを購入。
 『コミケ参加者の観察をかねた本日の感想・反省点などを語り合う会』をとつじょ結成し、缶ジュースを買ってベンチを陣取るが
「なぜスパイシーチキンを買ったのか」
についてハゲシイ口論になる。
 周辺のお兄さんに手当たり次第『まわし蹴り新聞』を配ることにした。みんな受け取ってくれる。
いい人たちだ……。
 その中でも、何かを語っていた3人組は素晴らしかった。新聞を手渡したとたん、彼らは会話を中断し、個々に東・西・北北西を向き、立ったままだまーって『まわし蹴り新聞』を読み始めたのだ。
 あまり「いい人」に慣れてない私たちはなぜかその場からすごすごと退散した。

6時

 中野ブロードウエイ「タコシェ」に『0点』のチェックをしに行く。
 小さい店内には7〜8人の人がいた。

「ねえねえ、この雑誌面白いんだよ。読んでみなよ」
「あ、知ってる知ってる『0点』でしょ?私も買ったよお」
「あれ?もう一冊しか残ってないんだあ……」
「やっぱり面白いのは早い(売行きが)ねえ」
と、リハーサル通りにやや大きめな声で0点アピールしたが誰も関心を示さなかった。
 冷たい人たち……。
 中野の街をさまよいながら、コミケの優しさが今ごろになって身にしみる。
 傷心の二人は『まわし蹴り新聞』の残りを高円寺周辺に配布しに行くことに決定。
 ついでに高円寺在住の「コレステロール 伊藤」に電話して暗黙の夕飯催促。

8時 コレステロール宅到着

 バカウマのカレーと、トマトサラダをごちそうになる。このサラダはまるごとトマトに玉ネギスライスをめちゃくちゃにのっけて、市販のドレッシングをかけるという大胆不敵な料理であったがこれがウマイ。
 コレステロールは自慢げに
「玉ネギを2ミリで切りそろえるのがコツでございます」
 と鼻をふくらまして言うのでモノサシではかったが、考えてみれば0.2ミリのまちがいである。
 大笑いをしてその場をごまかそうとするコレステロールだったが私と昆虫は冷ややかな目で見つめあった。
 最後に私だけ腐ったおしんこを強制的に食べさせられると言う拷問にあう。

 『まわし蹴り新聞』配布は面倒になったのでコレステロールにまかせて帰宅。

【後日談】
『0点』5冊売れたと言うことはケタ違いの少なさだったことが判明した。
 それにしても途中でマヒしてしまったあのくさい匂いはいったい何だったのか。ソレとも私たちもくさいんか。
 真相を探るべく、冬のコミケにも乱入する決意を固めた二人であった。






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