不明




血である。血。そう血まみれである。なにがって枕が。なんの血かと言うと人間の血、つまり自分の血であって、血まみれである。枕が。なぜって考えてみてもさっぱり検討がつかないので首である。どういうわけか首が切れて血が噴き出したようで、血まみれである。ふつう、首が切れてりゃ痛いだろうと思うが、それほど痛くないのである。首の中ほど、のどの5センチほど下がなんというか、こう、ひっかいたように切れているわけで、そこをさわってみるとカサブタになっておりました。それなら安心と、もう、ひとねむりしようとするのですが、なにせ、枕が血まみれ、そう、枕が。よって、寝ようとすると必然と自分の頭をその枕にのせることになるわけで、血まみれである。頭が。自分の血と言えども、やはり、気色悪い、じゃあ、枕をどかして寝ればいいじゃじゃねえかって話になるのだけど、それは無理がある。なぜなら自分は枕がないと眠れない性分なのである。かわりの枕を探しても見つからない。さて、これは困った。と、困ってるところに名案が。布団から1メートルほどのところに座布団が転がっている。コレを丸めて枕のかわりにしようというわけである。少々汚れてはいるものの、まだ、血まみれの枕よりかはましである。さあ、これでゆっくり寝られるぞ。と、その血まみれをどかすとサワガニである。はて、なぜ、サワガニか。これは全くわからない。そのサワガニは、もうすでに気の毒というか圧死というかつぶれて死んでいるのですよ、これがサワガニ。はてさて気味が悪い。枕の下にサワガニである。サワガニ、と言うかカニが。なぜか自分の布団の下にもぐりこんだと、それを知らずに自分は寝るわけで枕の下にいたサワガニはつぶれるわけで、それを知らずに自分は寝返りをするわけで(そう、自分は寝始めはうつぶせで寝起きは常にあお向け、少なくとも一回は寝返りを打つ計算になる)その寝返るときにである、枕によって圧死したカニが自分ののど元にいるわけで、じぶんはそれをちょっと寝返るときにひっかけてしまったと、よって血まみれ。血まみれの原因がわかったのはいいが難儀なのはカニの処理。つぶれたカニを処理するのも面倒なのだが仕方がない。枕を洗おう、ついでに布団も。布団を洗うのはいつぐらいかと思いだす返すと初めてである。こいつはいい機会とばかりに布団をどけようと辺りを見回すと色んなものが落ちている。先日きていた服、先々日着ていた服、雑誌、レコード、エロ本、空き缶、酒類の空き缶、ハサミ、ビデオ、ビニールの傘、殺虫剤、ねじ、発煙筒、小銭、包帯、マヨネーズ、立ち枯れたサボテン、ムーミンの小説、CD、猛毒の石松、釘バット、チブル星人、筆ペン、薬瓶、鉄、ああ、イヤになる。人が気持ち良く寝ているところを起こされてこれである。腐臭漂うカニである。まあ、こんなときは晴れの空でもみてうさばらしというか窓を開けると、雨である。ただでさえ日当たりが悪いというのに湿ったあげく雨である。雨もキライではないのだが、こう、なんというか、まあテレビである。実に貧困、なんとも庶民の発想というか、とりあえずテレビ。遠くのテレビをつけるのであればリモコンが必要なわけで。そのリモコンがまた見つからない。くるしまぎれのテレビさえつけられない状態に落ちた私はいかんともしがたく、気だるく、呆れた面で血まみれの枕とカニを眺めながら鬱鬱と暮らしているのです。そとはもう夕暮れ。ヒグラシが泣いておりました。合掌。


この作品は以前投稿していただいたものですが作者不明です。
ワタクシの作品だという方は名乗り出て下さい。編集部



Illustration nakki





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