不能君芸術家への道

峯 妙介




 また女に振られた不能君。断っておくが彼がインポか税金不納かは未確認。
 同窓会では張り切って頭をポマードでがちがちにしてきた。
「ねえ、今、彼女とかいるの〜?」
甲高い声でみだらな女がみだりに話し掛けてくる。
 誰だっけ?こいつ。
「またふられちゃったよー」
 不能君は嘘つきだ。嘘つきだが正直だ。そして嬉しそうだ。
「やだ〜ん、不能君てば、いいひとだからあ」
 不能君てば?
 聞くからに不能君手羽は美味しそうではある。それにしてもいいひととはまさしく褒め殺しである。いや、この場合けなしてると見なしてよい。
 しかし女は充血した目で狙いを定めた。不能君に!不能かも知れないのに!
 この女は低能だ。まさに「低能文学マガジン・0点」にふさわしい人物だ。
 不能君はいい人ではなかった。つまり悪人だった。むしろ極悪非道。しかしそれを隠しとおすのはいとも簡単。なぜなら必殺仕事人だから。
 必殺仕事人ゆえに必殺でなければ意味がない。その件について深く思考してみる。
 しかしそんな場合ではなかった。
 目の前にはサカリのついた女がいる。しかも背中の大きくあいた服を着ている。背中にはにきびがある。以前、善人だった頃、野鳥の会に所属していた不能君。よって愛用していたカウンターでカチャカチャを音を立てつつにきびの数を数えてみる。こんなときに役立つとは思わなかった、「カウンター」。恐るべし、野鳥の会。
 にきびの跡をたどっていくと……なんと文字が浮かび上がってきた。
『イカガ?』
にきびで文字を書くとは、さすがの不能君も感嘆した。
 背中女は芸術家だったのか!
 そもそも芸術家になりたかった不能君。即刻「背中アーティスト」に弟子入りを決定。
 芸術家不能君の誕生である。必然的に必殺仕事人は廃業した。

作・峯 妙介
Illustration nakki





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