パンダが好き!

紀ノ川 つかさ




 あたしはパンダが好き。もう大好き。大大大好き。だからカレシに言ったの。「ねえカレシ、パンダになってよー」「じょーだんじゃねーよ」「やだー、あたし一度パンダと一緒に住んでみたいんだー」「やだねー」そこであたしは手近にあったビール瓶でカレシをぶん殴って気絶させると、買っておいた墨汁と白ペンキを持ってきたの。「えーっと、まず目の周りが黒いよね。耳も黒いんだよね。あれ? 鼻も黒かったかな……?」それからカレシのTシャツを脱がすと考え込んだ。「あれー手が黒くて動体が白いんだっけ? 逆だったかなあ」さらにカレシのジーパンとトランクスを脱がすとまたも考え込んだ。「困ったなあ。この伸びてる方を黒くすんのかな、それともこっちの腫れてる方?」でもまあ、そうこうしてるうちにカレシは晴れてパンダになりました。「ねーねーカレシ起きてよー」「うーん……」でもその時、ドアをバンバン叩く音。「はーい、どなたー?」ドアを開けると本物のパンダが立っていた。「げっ!何ですか?」「何ですかって、俺と一緒に住みたいと言っただろ。わざわざ中国から来てやったんだよ」「で、でも、このうちもう満員です」そこにパンダ面のカレシも出てきた。「何だよ」「パンダよ」「マジかよ」「あ、それあたしのジーパンだよ」パンダは怒った。「てめーらっ! 何だその態度はっ!俺はなあ。ただのパンダじゃねえぞ。中国じゃ古タイヤの窃盗やサトウキビ強奪などで前科六犯だっ!」さらにピストルを出して凄んだの。「しかも密入国パンダだぜ。俺に逆らうとこのピストルでパンだっ!」これってちょっと逆らうとやばいよね。こうして、あたしとカレシとパンダの共同生活が始まったというわけ。

 パンダもさすがに動物園に通報などされるとヤバイと見て、二、三日はおとなしくもしてたんだ。でも、その朝はめちゃめちゃ機嫌が悪かった。「うぬぬぬぬ。またこんな朝メシかよ。俺がパンダだと思ってまた残飯だっ!」「なによーうるさいわねえ」「俺は家族かペットか居候か、どれだ?」「知らないよー」「俺はパンダだからなあ。白黒はっきりさせなきゃ気が済まねーんだっ!たまにはうまい笹の葉でも食わせろっ」「七夕まで笹蒲でがまんしてよ」そこでパンダはピストルを振りかざした。「ええい黙れ黙れっ。酒持って来いっ!」逆らうと今度こそヤバそうなのでビールなど持ってくると、もう飲むこと飲むこと。しかも酔いまくりわめき散らすの。酒に染まって白黒が赤黒になり紫黒になって、ようやくおとなしくなったんだ。「うぃーおなかパンパンだー。俺は寝るじょー」そう言って紫黒パンダはひっくり返って寝てしまった。あたしは今までの「かわいいパンダちゃん」が音を立てて崩された上、踏みにじられ、いたぶられてると感じたの。バイトから帰ってきたカレシにさめざめと報告した。「じゃあ追い出そう」「ピストル持ってるよ」「じゃあ逃げよう」「安直ねっ! お金が無いじゃない」「作ればいい」「どうやって!」「あいつ今寝てるだろ? ピストル奪っちゃえ。そうしたらそいつを使って銀行強盗ができる」「えー?」「しかも、終わったらあいつにピストルを返しておけば、パクられるのはあいつだ。一石二鳥だぜ」「さっすがカレシ。あったまいいー」こうして、あたしとカレシの銀行強盗大作戦が始まったというわけ。

 銀行強盗は見事に成功して部屋中札束だらけだったの。「いぇーい!」「うーん、我ながら完璧な金の運搬だっ」その時パンダはまだ寝てたんだ。「ねーカレシ、さっさとトンヅラしちゃおうよ」「待て待て、とりあえず祝杯のシャンパンだ」そう言ってカレシは冷蔵庫からシャンパンを持ってきた。「かんぱーい!」「ねーカレシ、どこ行こうか?」「とりあえず高飛びでサイパンだっ」「すげー、もうみんなに自慢しちゃおうよー」「うん、そうだな。手記も出版だ」「ねーカレシ、眠くない?」「眠いなあ……シャンパン飲んだら何だか眠くなったぞ……」あたしはそこで目の前が暗くなったの。どれくらいたったか、目を開けるとあったはずの札束が全部無かった。カレシは目の前に寝ていた。「ねーねーカレシ、起きてよー」「うーん……げっ、か、金が無いっ!」パンダは一応いたけど様子が変。「これ、毛皮だけじゃないか……」そして床には置き手紙を発見。『だまされたね諸君。私はパンダじゃない。ルパンだ。金はもらったよ』こうして、あたしとカレシはまたつまらない生活に戻ったというわけ。

「ねーカレシ、パンダになってよー」

作・紀ノ川つかさ
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Illustration nakki





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